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最新記事【2007年05月28日】

 メンタルヘルスマネジメントとは、「心の健康管理」を意味します。職場の管理者である上司は、健全な職場であることを目指し、部下である職員一人ひとりが心身ともに健康で、喜びと生きがいを持って職業生活を営めるよう配慮していくことが求められます。なぜなら、そのことが生産性の向上につながっていくからです。

 また当然のことながら、従業員の雇用主である使用者は各職場のメンタルヘルスケアが円滑に推進されるよう、管理職や推進スタッフ等に対し、全面的なバックアップを行う責務があります。その責務を果たすためには、使用者、関連する事業場内スタッフや労働組合、そして外部資源の3つが協同して、機能的に各自の役割を果たし、働く人たちのメンタルヘルスケアを推進していく必要があります。この際に要求されるマネジメント手法が、「メンタルヘルスケアマネジメント」です。

 当サイト管理人は、平成18年の秋に下記の研修に参加する機会を得ました。

  研修名:『職場のメンタルヘルスとマネジメント-"うつ"と"うつ病"の理解と対策-』

  講 師:国立精神・神経センター精神保健研究所/名誉所長
      中部学院大学大学院人間福祉学研究科/教授

      吉川 武彦先生

  受講日:平成18年11月5日

  主 催:関西看護出版

 本カテゴリーに含まれる以下のエントリ(記事)は、この研修の内容をまとめさせていただいたものです。本研修は職場のメンタルヘルスマネジメントを考えていくうえで、非常に参考になるものであり、また示唆に富んだ内容でもありましたので、ここに御紹介するものです。

 ■うつ・うつ病に見られる症状と主な原因

 ■感情障害(気分障害)とは

 ■うつ・うつ病の原因はストレス

 ■「こころ」と「人間関係」

 ■なぜ、いま"うつ""うつ病"が増えているのか

 ■うつ・うつ病の早期発見と早期介入

 ■上司として部下の心の問題を捉えるためには

 ■うつ病の治療、職場復帰と再発防止

■うつ病の症状とは
   うつ病の症状の多くは、大まかには以下の経過をたどるとされています。

   「おっくう」で「抑うつ気分」 ⇒ 「自身のなさ」 ⇒ 「考えがまとまらない」
    ⇒ 「やる気が出ない」   ⇒ 「何をしていいかわからない」 
    ⇒ 「もう自分はだめだ」  ⇒ 「死んだほうがいい」


■うつ病の兆候と経過

  『行動面での兆候について』

   上記の症状で触れているように、うつ病の最初の兆候は「おっくう」(何をするに
  しても「おっくう」と感じてしまう)です。この「おっくう」が続き、抑うつ状態に
  落ち込んでいくようならば、それは"うつ状態"であるといえます。

   この状態の時に、本人が仕事上で失敗をし、そのことを上司や周囲から指摘を受けると
  「自身のなさ」につながります。ここで注意すべきことは、当人が「抑うつ気分」である
  かどうか見極めることが重要です。上司が仕事に対して完璧を期そうという思いがあると、
  部下への指摘につながり当人を追い込んでしまう結果となります。

   次に「何をしていいかわからない」以降の段階になると、誰かに助けを求めなければ
  ならない(誰かが手を差し伸べなければならない)状態であり、当人へのサポートが絶対
  に必要となってきます。

   この段階で当人にみられる行動上の特徴としては、以下のものが挙げられます。

    ①遅刻が増える
    ②すぐに帰宅しないようになる
    ③定刻ですぐに帰宅するようになる

   ②は、家に帰っても気分が晴れないからです。これは、職場でルーティンの仕事をして
  いる方が気持ち的に楽であることが多いことによります。特に主婦層などは、家に帰ると
  ルーティンから外れる仕事がたくさんあります(子育てや調理等々)。

   一方、③については②の行動とは一見矛盾するようですが、これも危険な兆候とみなさ
  れます。現実逃避の1つのサインとして捉えるべきなのです。

   このように、早く帰宅するのも、また反対に遅く帰宅するのも日常生活の乱れの一種
  なのです。


  『体調面での兆候について』

   また、行動面での特徴以外に、体の変調の訴えが出てきます(頭痛・耳鳴り、風邪を
  ひきやすい、手足のしびれ・痛み)。この段階では、うつ病の入り口に立っていると認識
  しなければいけません。

   この段階で多くは通院に踏み切りますが、たいていの場合は内科を受診し、「特に異常
  なし」という診断をもらってくることになります。

   重要なのは、この段階で上司として精神科の受診を指示できるかどうかです。信頼できる
  精神科の医師を、上司として把握しておく必要があるといえるでしょう。心療内科の受診は
  手遅れになる場合があり、勇気を持って精神科の受診を勧めるべきです。

   心療内科は、あくまで内科であり診察対象は体の症状です。一方、精神科はその人の
  "こころの状態"を診ます。また同時に体の症状も診、2つの側面から当人を診察します。


■信頼できる精神科の医師とは
   信頼できる精神科医師の見分け方のポイントは、以下のとおりです。

    ①多剤投与していないかどうか。
      多剤投与は危険です。本人の訴えの全てに応じて、個々の症状を抑える薬を
     処方する医師は×。

    ②本来は単剤投与が基本(せいぜい2剤投与まで)。
      ターゲットを決めて(本質を見抜いて)取り組んでいるかが、薬の出し方で
     わかります。

    ③症状の改善がみられない時、3週間で薬を変えているかどうかも重要。
      したがって、1週間毎に薬を処方する先生は信頼がおけます。
      大抵の場合、薬の処方は2週間毎ということが多いのですが、本来は好ましく
     ありません(結果的に4週間服用し続けることになるため)。

 "うつ"は医学的には「感情障害(気分障害)」という言葉を使います(人間として感情がうまく働かないということ)。もともと人の気分には多少の「波」があります。上向きの波を「気分が爽快なとき」とすれば、下向きの波は「気分が沈み込んでいる」状態といえます。

 正常の範囲を少しでも飛び出したら"うつ病"というわけではありません。「正常」と「うつ」の間の境界線には一定の幅があり、そこに留まっている状態ならば、それは"うつ状態"(病気ではない状態)であり、"うつ病"とは分けて考える必要があります。

それでは、"うつ状態"で表れる気分としては、どのようなものがあるのでしょうか。

一般的には、抑うつ感、悲哀感、不安感、意欲低下などが挙げられます。

 これらの気持ちは、例えば午前中は調子が悪く、午後から改善するといったように日内変動があるのが一般的です。

 上記のような、気持ちに不良がある状態が続くと、判断力低下・欠如、集中力低下・欠如が出現し、業務に支障をきたすようになります。

 このような症状の中でも原因がはっきりしているものもあります。それが、①昇進うつ病、②荷下ろしうつ病、③仮面うつ病と呼ばれるものです。

 ①については、昇進を機に責任の重さに潰れることによって起きます。②については、介護や出産 など長い期間に渡って重要なことをやってきて、それをやり終えたことによる虚脱感から起こってきす。③については、体に様々な症状がでてくることが特徴です。その症状の裏に"うつ"が隠れています。したがってこの場合、体の病気と捉えて症状だけにフォーカスしていては、原因が全く明らかにならないことに注意する必要があります。

 うつ病の原因は、現在をもってしても完全にはわかっていません。ただし、うつ病になるきっかけは存在しています。その最大の要因が「ストレス」です。ストレスは、脳の中の順調な精神活動を乱す働きをします。

 ストレスには、俗に「善玉ストレス」と「悪玉ストレス」とがあるといわれています。善玉ストレスとは、人間が生きていくうえでプラスになるようなストレスのことをいい、これに反してマイナスに作用するストレスを悪玉ストレスといいます。

 悪玉ストレスは人の体に変調をきたします。症状が出始めたら、「心のSOS」であると気づくことが大切です(診察で体に異常がなかったら、心を疑ってみる)。

 「心のSOS」を認識していないと、仕事上においてがんばりすぎてしまい、その結果、こころを潰してしまうことになるのです。したがって、「がんばりすぎないようにする」、あるいは「がんばらせないようにする」ことが上司の務めなのです。「がんばっている時が危ない」ということを肝に銘じておく必要があります。

 人間の心の中には"バネ"があり、「モヤモヤ」とした気分や落ち込んだ気分をはね返す作用をしています。心に負担がかかるとバネが縮み、それがなくなると元に戻ります。しかし、反発力を潰してしまうような負担がかかれば、元には戻らなくなってしまいます(心のバネが効かない状態)。

 このようにはね返す力がなくなってしまうと、生きるエネルギーが著しく低下し、日常生活がまともに送れない状態になってしまうのです。心のバネが効かなくなってしまうと、具体的には自身喪失(思考面)、いらいら(感情面)、やる気の低下(意欲面)となってあらわれます。

■「こころ」とは
  ストレスに弱いのは、「こころ」がしっかりと育っていないからです。

  「こころ」は四面体でできていると考えることができます。4つの面、つまり
 「知」「情」「意」「自分らしさ」から構成されている三角錐と考えることができます。

  ・「知」は、物事をよく理解できる力であり考えをまとめる力である。
  ・「情」は、相手のこころを思いやることができる力である。
  ・「意」は、何かをしたいと思うことや、実際にそのことを行動に移す力である。
  ・「自分らしさ」は、「知」「情」「意」の3つのバランスを支える力である。

  このなかで、一番大切なのは、三角錐の底面となる「自分らしさ」です。
  この「自分らしさ」のこころを持ってはじめて「知的なこころ」が働き、「相手に対する
 情を示すこころ」を働かせることができ、「何かやろうという意欲を持って行動するこころ」
 が働きます。

  人間のこころがまっすぐな状態とは、この4つの面が同じ大きさでバランスが取れている
 状態、つまり正三角錐のかたちを保っている状態と考えることができます。

  しかし、同じ体積(こころの大きさ)でも、狭い底面だと重心が高くなりすぎてこころは
 不安定になります。つまり、こころの大きさは変わらなくても、自分らしさ(自我)がない
 と不安定になるのです。一方、同じ体積でも、側面のバランスが悪いと重心が偏るため不安
 定。つまりこころのバランスを崩しやすいといえます。

  このようにバランスが悪いと、ちょっと風が吹いたり、風を人の噂と言い換えれば、
 人から悪口をいわれるとそれだけでも倒れてしまう「こころ」の持ち主ということになって
 しまうのです。


■「自分らしさ」とは
  では、「自分らしさ」はどのようにしてできるのでしょうか。こころを卵の形に例えてみ
 ます。この卵の中には常時「欲求」というものが詰まっていて、その欲求は膨らんだり縮ん
 だりしています。大きく膨らんだときには、卵の中を占拠するようになります。膨らんだ欲求
 は卵の外の世界、つまり外界に向けて力をぶつけますが、反対に外界からはその欲求を
 抑え込もうとする力(世の中の約束や決まりごとに代表される「規範」)が入り込みます。

  このように「欲求」と「規範」が争いあって折り合いをつけたものが「自分らしさ」です。
  換言すると、こころの中にある「欲求」とこころに取り入れられた「規範」との闘いによっ
 て生まれてくるものが「自分らしさ」といえます。

  この「自分らしさ」とは、我が儘や勝手というのとは異なります。我が儘や勝手は、欲求
 のまま行動することをいうのであって、こころの中に取り入れられた規範との闘いによって
 生み出された「自分らしさ」ではありません。

  いま、この「自分らしさ」を育てない子育てが大流行しています。例えば、「親のいうこと
 を聞きなさい」とか、「先生の指示に従わない子はいけない子」といった育児や教育の結果、
 「上司の指示に従うことがよい社員である」といった考えが導き出され、指示を出す方も指示
 を受ける方もそれが当然だというような雰囲気が醸成されています。

  しっかりとした「自分らしさ」を持ち、「自分ならどうするか」を考え、「自分はどうした
 いのか」を自問しながら課題に取り組むことができる上司・部下との関係でなければ、職場に
 おける問題解決の道に近づけません。

  ということは指導者自身が自らを省みて、自分に自分らしさが備わっているか否かを考える
 ことが重要になってくるのです。


■「人間関係」とは
  人は、人と人の間で育ちます。人のこころは人のこころと人のこころの間で育っていきます。
 人間関係が「こころ」を育てるといってもよいでしょう。

  人間関係を発達的に捉えると次の3段階があります。

   ①自分よりも年上の存在との関係を通じ ⇒信頼するこころを育む
   ②自分よりも年下との関係を通じ ⇒自制するこころ(セルフコントロール)を育む
   ③同年との関係を通じ ⇒自己認識・他者認識のこころを育む

  人と人との関係は、この①②③の関係を順番に、そして繰り返していきます。

  人はこのような人間関係の段階を順序よく踏んで自立していきます。

  いま、こうした発達段階を順序良く踏む子育てをしなくなってきています。ということは、
 職場にもこのような段階を経て育った人が少ないということになります。そこに職場における
 メンタルヘルス問題の根っこがあるといえます。

  上司に求められる指導力とは「人と人を結びつける力」、つまり「人間関係力」なのです。
 「人間関係力」をつけるというのは、上記のような順序を踏んできたか否かを職員の一人
 ひとりについて考えながら職員理解を深め、其々の職員に課題を担ってもらう配慮をする
 必要があるということです。

 戦後日本は近代化・近代工業化を急ぐあまり、「スピード重視/S」「生産性の奨励/S」「管理強化/K」「画一化推進/K」を掲げ邁進してきました。

 子育てにもこの考えを取り入れてしまったのではないでしょうか。このことは、子供への声かけにも見て取ることができます。すなわち、「早くしなさい」「頑張りなさい」「しっかりしなさい」「皆と同じにしなさい」という声かけです。

 さらに追い討ちをかけてきたのは、「他人に迷惑をかけない」「何でも自分でやるように」といった考えが美徳であるとされたことです。

 このような考えで親や学校の教師から教育を受けてきた結果、人の助けをかりないようになり、さらに人に弱みをみせないようにもなり、そして人に弱みをみせることが嫌なために、人と交流することをしなくなったのです(人との距離感が遠くなっている)。

 これらのことが、人のこころが育たない最大の要因といえます。上司は、部下がどのように育ってきたかを理解していく必要に迫られています。こころのつくりがどうなっているのかを見極め、どこが弱いのか、どこを補強しないといけないのかを考えていくことが必要となっています。

 戦後の団塊の世代においても、こころの弱い人が少なくありません。その弱い世代に育てられた部下の世代は、さらにこころが弱いということを認識しておかなければならいでしょう。

■早期発見を考える前に
  上司として部下の心の健康状態に配慮し、”うつ状態”や”うつ病”の早期発見にむすびつけていく には、普段から心がけておかなければならない大切なことがあります。それは以下の4点です。


  ①「人を病名からみない」、「病名で人を判断しない」、「病名をつけない」。
   以上の3点を肝に銘じておく必要があります。上司として、人として基本となる姿勢です。

  ②面接のコツを身につける
   表情・態度・言動・行動、意識、見当識、記憶、知能把握。普段の日常の会話や様子の
   中で、これらの項目をチェックする習慣を持つようにします。

  ③重点をどこに置くか考える
   疎通性、注意、思考(思路、内容、知識)、感情、意志意欲。日常行動の中で質問項目と
   してつくり、当人に投げかけてみます。

  ④うつ・うつ病を疑うときは
   「知」(思考の内容が貧弱か)、「情」(気分の落ち込みがあるか)、
   「意」(発動性の低下があるか)の3つの側面からチェックします。


■早期介入の前に
  上司として早期介入を行う前に、部下の以下のような傾向を知っておくこと必要があります。

  ①こころのひ弱な若者が多い。

  ②型にはまることが楽な生き方だと思っている(型から外れることを嫌がる)。

  ③小さなときから決められた道を歩いてきた。つまり、冒険はしないし、思いがけないこと
   もしない。

  ④失敗もしないかわりに、成功感もない。このことが、今の教育で一番の問題。

  ⑤褒められた経験はあっても、叱られた経験がない。

  ⑥決まった道から外れるとパニック、失敗するとパニック、叱られるとパニックを起こ
   す。

  近年、「引きこもり」が増えているのも、心のなかに「失敗したくない」という気持ちがある
 からなのではないでしょうか。したがって、上司は育てなおしをする考えでもって部下と接
 していく必要があるといえます。褒めるだけではダメ、失敗しないように手を出すのもダメ、
 どこで失敗したのかを一緒になって考えていく姿勢が大切になります。

 
■うつ・うつ病と生きる意欲の低下
  苦悩・苦痛・不安が増大すると、精神的な活力が減退し、生きる意欲の低下が起きます。

  しかし、このようなことは表にでてこないこともあます(それを見せない人もいる)。

  したがって、上司としては、「失敗しない」「手がかからない」部下ほど注意しておく
 必要があります。

  部下が個人的なことを話すようになったときには、注意する必要があります。上司として
 は話を聴く態度で接することが大切です。

 上司として部下の心の問題を捉えるためには、、多面的な視点を持つ必要があります。

 ■「5W1H」で問題を捉える
   部下に問題行動がある場合、「5W1H」を念頭に置いて考え・分析すると、問題の
  中味がわかりやすくなります。

   つまり、

   ・それが誰にとっての問題なのか(本人にとっての問題か、周囲にとっての問題か)

   ・問題の性質はどうなのか

   ・どこにおいて問題なのか(職場においての問題なのか、それとも家庭においての
    問題なのか)、

   ・どんなときに問題なのか(いつも問題なのか)

   ・そもそも、どんな問題なのか

  以上の点をはっきりさせておく必要があります。


 ■「事例性」と「疾病性」に分けて考える
   職場で部下の精神医学的なトラブルが疑われた場合、一般的に職場関係者は精神科医
  など専門家ではないわけですから、必要以上に精神医学を持ち出す必要はありません。
  むしろ、問題を「事例性」と「疾病性」との2つに分けて考えていくことが大切になり
  ます。つまり上司としては「事例性」を重視する姿勢が大切になります。

   ここで「事例性」というのは、上司の命令に従わない、勤務状況が悪い、仕事がで
  きない、周囲とのトラブルが多いなど、実際にあらわれている客観的事実で、関係者
  がその変化にすぐに気がつくことができるものです。

   一方、「疾病性」とは症状や病名などに関することで、幻聴がある、被害妄想がある、
  統合失調症(精神分裂病)が疑われるなど、専門家が判断する分野のことです。

   すなわち、職場で何か精神的なトラブルを感じた際には、病気の確定(疾病性)以上に、
  業務上何が問題になって困っているか(事例性)を優先する視点が重要です。

   たとえば、「職場で何か奇妙な行動をとる人がいる」と周囲が感じた際には、統合失調症
  だ、うつ病だといった精神医学的な診断を下す(疾病性)のではなく、本人もしくは周囲に
  どう影響しているのかという現実面を捉らえることが先決になります。

   「出勤状況が不規則だ」「仕事に集中できず、周囲に負担をかけている」「そうした
  状況を本人は少しも自覚していない」など具体的に把握していくのです。その結果、精神
  医学的に問題がありそうと判断されれば、次の段階として、どうやって精神科医につなげ
  ていくのか、その方法と役割分担を職場として考えていきます。その際、カウンセラーや
  産業医に関係者間の連絡調整役を依頼しなければなりません。

 ■部下の話のきき方を身につける
   当たり前のことですが、話をよく聞くことが重要です。きき方を身につけ、職員の具体的
  な情報を得ていかなければなりません。

   "きく"には3つあります。これを”きき方”の「AHL」といいます。
  
   上司としては以下の3つのきき方(AHL)を身につけておかなくてはいけません。

   ①「訊く・尋く」(ask)
     相手に質問して回答してもらう。

   ②「聞く」(hear)
     選択してきく、きき流す(きき流して忘れてあげることも大切です。そのことが
     相手の安心感に繋がることもあるからです)。肝心なことのみ頭に留める”きき方”
     です。3つの"きく"のなかで、一番難しい行為であるとされています。

     この能力がないと、いい"きき"手にはなれません。

   ③「聴く」(listen)
     こころにとめてきく。ただし、全てこの"きき"方をしていると、きき手の方がつぶれ
     てしまいます。


 ■部下の観察の仕方を身につける
   観察は、以下のように3つの「A」で行います。

   ①「遅刻・無断欠勤」(absenteesm)
     これらの行為が続くようだったら、警戒する必要があります(家庭あるいは職場に
     おいて何かがあると考えなければなりません)。

   ②「事故・ミス」(accident)
     事故・ミスの頻発は、当人の注意力が落ちている証拠です(たまたまということも
     ありますが、ヒヤリ・ハットに遭遇する機会が多い人は要注意といえます)。

   ③「飲酒」(alcoholism)
     飲酒の機会が多いかどうかも注意しておく必要があります。
     アルコールは人のこころを狂わします。神経細胞の働きを麻痺させ、判断力が低下
     します。


 ■メンタルヘルスケアには4つのケアがあることを念頭に置く
   従業員のメンタルヘルスケアには、以下のように4つのケア(4つのケアのことを
  「SLSS」と呼ぶ)があることを念頭に置いておく必要があります。

   ①「セルフ/S」
     自分のことは自分で判断する(セルフケア)。

   ②「ライン/L」
     ラインでケアをする(上司⇒部下)。

   ③「スタッフ/S」
     スタッフの力をかりてケアをする。
     大企業では、産業医等、従業員の健康を管理する職種がいます。中小企業等、その
    ようなスタッフがいない場合は、外部資源を利用してもよいでしょう(例えば、EAP
    と契約するなど)。

   ④「資源/S」
     地域社会の公的な相談機関(保健所、産業保険センター)と手を組む。

   自部署内で解決できないことは、スタッフや外部資源の力を借りなかえればなりません。
   問題を職場として抱え込まないことが大切です。

■うつ病の治療
   うつ病の治療は、一般的に以下の3つに分類されます。うつ病の治療においては、
  基本的には精神療法(心理療法)が大切になります。しかし、第1選択とすべきは、
  薬物療法です。そして何より、当人を頑張らせるより、まず休養させなければなりま
  せん。休養こそが、頑張ってきた当人に対する最大のプレゼントになります。
 
  ①精神療法
   一般的療法(説得、支持、カタルシス)
   専門的療法(精神分析、森田療法、来談)

  ②薬物療法
   精神安定剤、抗うつ剤、抗けいれん剤、睡眠導入剤

  ③その他の療法
   作業療法、芸術療法(音楽等)、レク療法、集団療法、家族療法等

   精神療法については、いつまでもこだわり続けてはいけません。軽い状態のときに
  薬物療法を導入することが大切です。また同時に、当人の”こころ”をつくりかえて
  いくことも視野に入れておく必要があります。


■職場復帰と再発防止
   うつが障害として残ることは90%以上ありません。うつ・うつ病の特徴を踏まえて
  周囲が接していくことが求められます。うつ病は再発・再燃しやすく、当人の病識・病感
  の欠如が見られやすいことにも注意しておく必要があります。

   再発・再燃させないためには、当人の気分の波が正常範囲の中で変化するよう、周囲が
  サポートしていかなければならなりません。また、周囲は"きく"という姿勢に徹すること
  が重要です。そのためにも職場のシステムとして、相談機能があることが望ましいのです
  (外部委託でも可)。

   休職・復職のルールつくりについても簡単なことではありません。マニュアルを作成し
  ても、うまくいかないことの方が多いのです。なぜなら、この問題は私的で個別的な特徴
  を持っているからです。したがって、休職・復職については、専門の医師を交えて話し合
  うことの方が望ましいといえます。


■企業のメンタルヘルス対策に活かすために
   企業は従業員を雇う段階、つまり選抜段階からメンタルヘルス対策について考えていか
  なければなりません。
 
   当人が勉強してきたかどうかは入社時の筆記試験をすれば明らかになります。しかし、
  そのようなことよりも、重視しなければならないのは、その人が人間関係の発達順序
  踏んできているかどうかです。

   学生時代にクラブに所属したかどうか、またそこでどういう役割を担ったのか、後輩の
  面倒をみてきたか(自分より下の世代とどう付き合ってきたのかがわかる)、ということ
  を面接の中できちっと訊くべきなのです。

   つまり、学力試験だけに依存しない選抜方法にすることが大切です。失敗経験を積んで
  いるかどうか、またその経験をどう表現するか、どのように乗り越えてきたかを面接時に
  訊いておくことが重要です。

   また、その人の対人関係の深さを推察させるような小論文を書かせることも大切です。
  例えば、「友人が困っているときに、どのように関わったか」というテーマを設定する
  のです。

   以上のような選抜段階からできることを行うことによって、その人の人間理解を深めた
  うえで、どのように教育していくのか、どのような課題や役割を企業のなかで担っていっ
  てもらうのかを考えていく必要があります。

メンタルヘルスとは?

メンタルヘルスとは、心の健康のこと。
とりわけ企業では、複雑な人間関係や長時間労働などのストレスにより、メンタルヘルスに不調をきたす人が増えてきています。